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猫とワタシ

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背中合わせのNight&Day

この記事のみを表示する電車の中のロックの神様

HARRY



東京・銀座 ある日の夕方

村上春樹の新刊『東京奇譚集』に収められている
『偶然の旅人』を読んでいて、ふと思い出したことがあった。
この話の中には著者自身が遭遇した、
「ジャズの神様みたいなもの」がもたらした
ジャズにまつわる不思議だけど幸せな偶然についての
エピソードが書かれている。

私の場合は不思議っていうほどではないけど、
でも幸せな偶然の思い出。

2年くらい前の晩秋のある日、仕事で三多摩地区の街へ行ったことがあった。
三多摩地区イコール、私の中ではスライダーズの地元。
まだ田舎の高校生だった頃には憧れてやまぬ未知の場所だった。
今はもう東京で暮らすようになってだいぶ経つし、
特別な思いはさすがに感じない。
ただその日はなんだか、その街に着いた時から
HARRYのことがやたらと頭をよぎった。
妙に近くに感じられるというか。
東京だけどどこかのどかな、都心とは違う空気感が
そういう気分にさせるのかな、なんてぼんやり思っていた。

夕方に仕事が終わり、東京方面行きの中央線に仕事のスタッフとともに乗る。
帰宅ラッシュにはまだ早い時間だったけど車内は結構混雑していた。
ドア付近に立って、やり過ごす。
しばらくしてどこかの駅にとまると、乗客がどっと降りていって
車内は一気にすいた。
近くの席があいたので私はシートの一番端に腰かけ、
隣にスタッフの女の子が座った。
ほっと落ち着いたところで、その子に話しかけようかなと思って隣を見たら、
突然視界にものすごいオーラが飛び込んできた。
その子の隣の隣の隣の隣くらいに、HARRYが座っていたのである。

心臓が飛び出るかと思うほどびっくりしたけど、
そんなところで大騒ぎをするわけにはいかないので、
ひたすら冷静を装ってスタッフの女の子と仕事の話をし、
でも目の端ではちらちらとHARRYを追った。

HARRYはカバーをはずした文庫本を読んでいた。
左手に本をのせて、右手でそっとページをめくる。
本の扱い方がとてもていねいだった。
夕陽が差し込む車内で、HARRYはすっと背すじをのばして本に目を落とし、
ただ静かに文字だけを追っている。
そしてやがて新宿駅に着くとHARRYは本を閉じて立ち上がり、
南口の改札のほうへと去っていった。

それだけ。
たったそれだけなんだけど。
話しかけたわけでもないし。
それが何か自分にとってのエポックメイキングになったとか、
そういうものではまったくないんだけど。
だけど、あえてとってつけたようなことを書いてしまうと、
その頃自分を取り巻いていた状況としては
落ち込むようなことがわりと多くて。
それとこれとはまったく別の話なのだけど、
でもやっぱりあれはロックの神様が、あのタイミングで
もたらしてくれた幸運な偶然だったのかも…なんてね。

長野でHARRYのライブを観た帰りの東京駅の中央線のホームで、
青森のライブへと向かう仙台駅の新幹線の改札で、
HARRYに遭遇したことはある。
別にそれを狙って追っかけをしているわけじゃなくて、本当に偶然。
(そして遭遇したといっても至近距離で目撃しただけ)。
でも自分が何らかの行動を起こしている時っていうのは
そういう確率も増えるものなのかな、と思ったりもした。
時間もお金も余裕があるわけじゃなかったけど、
ただ今のHARRYを観たいという衝動に突き動かされて、
HARRYのライブをあちこちに観に行っていた頃。

青森へ向かう新幹線では、HARRYのスタッフの男性と同じ車両だった。
網棚に載せられたHARRYのギターケースが視界に入る場所にあって、
それを見ているだけで満ち足りた気分になった。
あと数時間後にはHARRYの手で、そのギターは奏でられる。
期待感と幸福感に、深く深く包まれた新幹線の旅だった。

コメントの投稿

secret

No titleNo title

不思議だけど、自分が動いている時は知らぬ間にLUCKを
引き寄せているような気がすること、あるかもしれないですね。
随分前ですが、新宿駅で何かお香の匂いが漂ってるなぁ、
と思ったら、HARRYがそこにいたことがありました(笑)
スライダーズのことあまりよく知らないけれど、私も某バンドに
入れ込んでたことがあるし、音楽で精神的に助けられること
って本当にある。ちょっと寄りかかりすぎてたこともあるけど(笑)。

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