猫とワタシ

BACK TO BACK

背中合わせのNight&Day

この記事のみを表示するあるロックファンのきもち

SONGS&WORDS

 20代を中心に支持されている人気バンドが複数出演するロックフェスに行った。
 フェスといってもフジロックのような大規模なものではなく、1000人程度のキャパのライブハウスでのイベントである。逆にいえばこの程度のキャパの小さな会場で、通常はアリーナクラスのホールでツアーを行っているバンドたちのライブが観られるということであり、このロックフェスの開催が決まるとファンの間では話題を呼んだ。当然のことながらチケットも発売当日にソールドアウトとなった。
 わたし自身はそのフェスの目玉である人気バンドにはとくに興味がない。それでもそのフェスはどうしても観に行きたかった。なぜかというと、この10年ほど活動を休止している「あのバンド」がこの日だけ再結成して特別出演をする、という情報が入ってきたからである。真偽のほどはフェス当日になるまでわからない、というなんともいい加減な情報であったが、とにかくシークレットゲストが出演することは確からしい。そしてそのシークレットゲストが「たった一夜だけ再結成するバンド」であるということを、このフェスの主催者が宣伝のためにほのめかしていた。
 わたしは賭ける。「あのバンド」をもう一度観られる可能性に。チケットは自分が入手する前に売り切れてしまったので、ネットオークションで競り落とした。定価6000円のチケットに7万円支払った。それ自体は愚行だとは思うが、その金額を惜しいなどとは決して思わない。「あのバンド」をもう一度観ることができる。それはわたしにとって、死んだ愛する者が生き返ってまた自分に寄り添ってくれることに等しい。そういう奇跡に値段をつけることなどそもそもできるはずがない。

 フェス当日がやってきた。ライブハウスの中は息をするのも困難なほどにぎゅうぎゅう詰めだ。わたしがよく足を運ぶライブ会場の雰囲気とは明らかに何かが違う。若い。若いのである。ここにいる客の9割はおそらく20代前半であろう。40代のわたしは、自分の老いをいやでも自覚せざるを得ないほど浮いている。
 なんとも表現し難い居心地の悪さを感じながら、会場内の後ろの壁に寄りかかりフェスが始まるのを待つ。ステージ前に押し寄せる若者たちの姿を遠目に眺めているうちに、ふといやな考えが頭をよぎる。
 わたしの目当てである、「あのバンド」のファンらしき客層が少なすぎやしないか? 20年前に全盛期を迎えた「あのバンド」がここに出てきて、そして活動休止から10年ぶりに音を出したとして、この若者たちにどれほど響くのか? 場合によっては会場中がどん引きしたりする可能性もあるのではないのか?
 そもそもなぜ、「あのバンド」は10年ぶりの再結成の舞台をこのフェスに決めたのだろうか。もっとコアなファンを集められるような場を選んでやればいいのに。
 期待よりも不安のほうが勝る複雑な気持ちでひとり立っていると、隣に立つ同世代らしき女性が声をかけてきた。
「もしかして『あのバンド』のファンの方ですか?」
「そうです」
「ああよかった、同じひとがいて。若い子ばっかりで心細くなっていたんです」
 その言葉を聞いてわたしも「ああよかった」と思わず笑う。
 同世代で同じバンドのファンならば、多くを語り合わなくてもお互いの気持ちはなんとなく伝わり合うものである。わたしとその女性はつかず離れずの距離に立ち、ステージを見守る。

 フェスの幕が開いた。前半はデビューして間もない新人バンドのライブがいくつか続く。ここに集まっている若い客たちの目的である「大物」バンドはもちろんトリである。そして肝心要の「シークレットゲスト」はちょうど中盤くらいに出演する予定となっている。そのシークレットゲストが何者であるのかは明かされていない。「あのバンド」だとわたしは信じているが、まだわからない。
 会場内の若者たちの盛り上がりは、一言でいって熱い。ステージから投げかけられる音や声に対するリアクションが、いちいちものすごくいい。浮いている自分に引け目を感じる一方で、フェスならではのお祭り感をつくり出すのは客の役目でもあるのだ、ということも実感する。

 シークレットゲストの出番がやってきた。MCの男性がステージに立ち、「あのバンド」の名前を口にする。わたしと隣の女性は瞬時にお互いの顔を見つめ合う。ほんとうにほんとうに、「あのバンド」が出るんだね。
 しかしMCの男性は思いもよらぬ言葉を続けた。
「実はバンドのメンバーが全員集まらなかったので、今夜はヴォーカルの××さんがひとりで弾き語りで出演します」
 と。

 え。

 一瞬絶句した。
 そうか「あのバンド」は観られないのか。
 それはとても残念だが、ヴォーカルの姿が観られるだけでも十分うれしい。あの声を生で聴けるだけで、ここにきた甲斐があった。喜びに胸が高鳴る。
 その直後、信じられないような光景が目に映り始めた。ステージ前方に押しかけていた若い客たちが一斉に会場の外にぞろぞろと出て行くのである。「トイレ休憩、トイレ休憩」と口ぐちに言っているのが聞こえる。「あのバンド」に興味のある若者はここにはひとりもいないのか。
 会場に残ったのは、わたしとわたしの隣に立つ女性、そしてやはり同世代と思われる数名の男性だけだった。
 久しぶりにステージに立つ「あのバンド」のヴォーカルのそのひとがこの有り様を目にしたらどう感じるのか。
 その気持ちを想像しただけで心がはりさけそうになる。
 しかし無情にも外に出て行った若い客たちは誰ひとりとして戻ってこない。
 セッティング中で暗くなっていたステージにパッとスポットライトが灯る。
 また生で観たい、声を、そしてあの音をまた聴きたい、とわたしが10年間ずっと焦がれて続けてきたヴォーカルのそのひとがステージに現われる。それはほんとうならばものすごく感動的な瞬間だったはずである。
 ヴォーカルのそのひとは、舞台袖からステージへとゆっくり歩いてきた。そして客席を見るなり、呆然とした様子で立ちつくした。
 彼の登場を待っていたわたしも、そしてほかの数名の客も、わーともきゃーとも言えず、黙ってステージを見つめる。
 ステージとがらがらに空いた客席の間に、気まずい空気だけが流れる。
 ヴォーカルのそのひとは憮然とした表情でマイクスタンドの前に立ち、言った。
「客をふたりずつでいいから連れ戻してきてくれ」
 そしてステージ上にセットされたアコースティックギターを手にとることもなく、ステージから去っていった。

 会場内にいる全員で外に出た客をふたりずつで連れ戻したところで、20人に達するかどうかもあやしい。それでも今より客が増えれば、気を取り直して歌ってくれるということなのだろうか?
 よくよく考えればヴォーカルのそのひとにはプロ意識もへったくれもないといえるし、そのひとの歌が聴きたいがゆえにここにいる我々ファンにとっては甚だ理不尽な話である。
 が、その場にいるときにはそんなことはひとつも考えなかった。隣にいる女性と連れだって、即座に会場の外に出た。すぐさまトイレの入口へと走り、順番待ちで並んでいるひとたちに「中に戻って××さんのライブを観てください!」と懇願する。恥も外聞もない。ロビーで煙草を吸っているひとや、バーカウンターでアルコールを飲んだりしているひとたちにも同様に頼み込む。
 どれだけ丁重に頭を下げても、誰ひとりとして中に戻ってはくれない。「そんなやつ知らねえし」とにべもない。

 せめて音を。
 音を一発出してくれれば、それが今この瞬間は無関心でいる若者たちの耳にもとまり、そのうちの何人かはもっとちゃんと聴いてみようと中に戻ってくれるかもしれないのに。

「あのバンド」やヴォーカルがどれだけ素晴らしくかっこいいのかを、まったく興味のないひとたちに言葉だけで伝え、そのうえライブを観るという能動的な行動へと導くことのむずかしさを初めて身をもって知る。ただの一ファンにすぎないわたしはあまりにも無力である。

 しかしとにかくわたしは会場の外で休憩している若者たちの間を駆けずりまわる。
「観て、観て」と叫ぶ。なぜならわたしが観たいからである。
 観たい。音が聴きたい。ただその一心で走る。走り続ける。
 そして若者たちにどれだけ無視されようとも声をかける。かけ続ける。
 夢の中で。



そう、ある晩、夢で見たお話なのでした、チャンチャン☆
夢にちょっと色をつけてみました。つか最初から夢落ちとバレバレな話ですな。
ちなみに実在するバンドやヴォーカルはおりません
が、ものすごく悪夢であったことは事実です。

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secret

あ~~~!!心臓に悪い(笑)
ものすごくドキドキして最後まで読み進む事が
出来ず途中で汗が出てしまい、クラクラしちゃって
中断して・・・(こういうの弱いんです ふふ)
でも最後まで見届けなくちゃ・・・と思いなおし
読んでみたら・・・夢でしたか^^
良かった~!!ものすごい悪夢ですね。
夢でよかったです。
ロックファンとして、非常に非常に
切なくなりながら、胸をかきむしられる思いで
読みました。本当に夢でよかった。
でもね~こういう気持ち・・・私は斉藤和義の
ライブアンコールで割りとあるんですよ~
ここまでじゃないけど慣れきったアンコールという
習慣。みんな出てきて当然と思っているので
拍手もまばら・・・なことが多くて座っておしゃべりしてる余裕あったら拍手してよ!!って
思ってイライラしちゃうんですよ
逆にこんな拍手まばらだったらアンコール
なくしちゃっていいよって思います。

全く"ない"とも言い切れないストーリーだもの
最後に落ちがあってホッとしました(笑)

ライブってミュージシャンとオーディエンスの
相乗効果でなんぼ、みたいな所があるじゃないですか
やっぱりお客さんのオーとかワーッ、キャーッが
後ろから波のように聞こえてくるライブが好きです。
もちろんワタシも騒ぎますが(笑)
↑みたいだったら、ホント痛くて涙もでないかも。悪夢です(笑)

んも~んも~

しどい、ぐぬんさん・・・
最後までホンマのお話だと信じて疑わなかった夢子です。
もうさ、文章がウマすぎるからグイグイ引き込まれちゃったワケですよ。
それもかんなりドキドキ&手に汗握りながら><
「あのバンド」に「あのヴォーカル」ってやっぱりアレかな?とか想像しつつ・・・
7マンに驚愕しつつもグヌンさんなら払っちゃうんだろうなと納得しつつ・・・
いやはや、とにかくここ1週間で一番のドッキリでしたわ ^^;

アパさんアパさん

アパさん、こんにちは~!

アパさんの心臓に悪いことしちゃってごめんなさいっ!
あまりにもいやな夢だったのであえて細かく再現してみたくなってしまいましたー
ほんとに夢でよかったですー!!
夢の中ではもちろん夢だとは思っていないのでほんといやな汗をかきましたよぉ。
でもね、事実は夢より奇なりというか、現実のライブでもこれに匹敵するくらい
いやなことが過去にあったのです~あートラウマ。

アンコールのお話、前にアパさんのブログで読ませてもらったときも
実はちょっと耳が痛いなと思ったわたしでありました。
わたしもアンコールの拍手はしているのですが、
でもアンコールがあるという前提に、気持ち的に甘えているところは正直ありまする。
ほんと、アンコールはその場その時でやるかやらないかを決めてもらってもいいのかも!?
っていうのも他力本願な話ですけどね…
(ちなみにアンコールはやらない方針のミュージシャンもいるようではありますが)
うーん、でもやはり、そこでおしゃべりとかしてるのはちょっと違うだろーとは思いますなぁ。
なんというか、ライブ会場もほんといろんな人がいますよね。。。

b_nomadさんb_nomadさん

b_nomadさん、こんにちは!

> 全く"ない"とも言い切れないストーリーだもの

ですよね……
「こんなことありえな~い」と言いたいところですが
やっぱり言い切れません(笑)

わたしはもともとあまり騒がないタイプではあるのですが
ライブにおけるミュージシャンとオーディエンスの相乗効果というのはすごく感じますねー。
現実にあったその辺りのこぼれ話も振り返るとぽろぽろ出てきたりなんかして(笑)
そう、そして夢の中でもほんと涙は出ませんでしたよ~。
こういう状況で出てくるのって、いやな汗だけなのね!?(爆)

kotripさんkotripさん

kotripさん、こんばんは!

わはは、kotripさん、ごめんなさい~!
って笑いながらおわびをしているほんとにしどいわたし。どうぞおゆるしをー!

でもでも
> いやはや、とにかくここ1週間で一番のドッキリでしたわ ^^;
ってめちゃくちゃ光栄ですっ!!
わたしもここ1週間で一番のどや顔になってるかも、今この瞬間……フフフ
ありがとです♪

いや、でもさすがに7マンはね。
いくらなんでもちょっとどうかと思います(笑)

失敗っ!失敗っ!

おーっ。珍しく写真がないぞ~
じゃったシリーズかな~と思い、
なんとなく全体をスクロールしちまった私。
残念・・
夢という結論がわからず読んで騙されたかったー(≧m≦)ぷっ!

↑ないこともない話だと私も思ったよ。
私らの世代なら、悪くてできないことも、
今の若い人は、やりにくいことも
みんなでやれば怖くない的にやっちゃう気がする。

ホントにみたいこんなライブなら、
グヌンさんなら大金払いそう。
私、そこまでのファンになったことないから、
半分でも払える気がしないッス。

えこさんえこさん

えこさん、こちらにもありがとう♪

そういえば、じゃったシリーズ、しばらくご無沙汰してますな。
なにかネタを掘り起こさないと(笑)

でも正直わたし自身もこういう複数のバンドが出るイベントだと、
興味がないバンドはほとんど観てなかったりするのよね。
自分自身にそういうところもあるからこんな夢を見ちゃうのかも(汗)

そして自分でこういう記事を書いておいてナンだけど(笑)
どんな不正をしても大金払ったんだからいいでしょ!ってな感じで
ライブを観に行くようなマネはよしたいなーとは思ってるんです~一応(笑)
でもその状況になってみないと本当にどうするかはわからないというのも事実でして…はい…