猫とワタシ

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背中合わせのNight&Day

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過去の旅


ひとりで飛行機に乗ると、なぜか隣の席の人もひとり旅であることが多い。
海外への空の旅では、そうした“ひとり者同士”、何となく話をすることも多い。
私はもともとそんなに自分から積極的に話しかけるほうではないし、
隣の人も一見そう話好きなタイプではなさそうだったりするのだけど、
機内食タイムになるとどちらからともなく、何でもないことを話し始める。
食事の時って自然と話をしたくなるものなのかも、それが機内食であっても。
長いフライトなら、その後お互い本を読んだり、眠ったりと過ごし方はいろいろだけど、
数時間を供にする間にはやっぱり何度か言葉を交わす。
たとえばガルーダインドネシア航空なら隣の人の行き先もほぼ100%バリ島なので、
バリ島の話で盛り上がったりすることもある。

これがシンガポール航空だとちょっと違う。
成田―シンガポール間の乗客の目的地は本当にさまざまだから。
もちろん行き先がシンガポールという人も多いが、
シンガポールを経由して他の国に行く人も多く、
その「他の国」の数もちょっとした多さなので、
バリ島に行くことしか頭にない私としては、隣の人の行き先を聞いて
「へえ~、そんなところにもシンガポールから行けちゃうんですね~」
なんて無知まるだしな感心の仕方をすることもある。
世界はこんなに広いというのに。

これもやっぱり10年以上前のことになると思うのだけど、
シンガポール航空の成田からシンガポールへ向かう便に乗った時、
隣の席の人がやはりひとり旅の男性で、機内食タイムをきっかけに話をした。
その人は某テレビ局のディレクターで、これからドキュメンタリー番組の
ロケハンのためにバングラデシュへ向かうということだった。
当時シリーズ化されていたそのアジア関連のドキュメンタリー番組は
毎週決まった時間に放映されていて、私も好きでよく観ていた。
といっても「その番組のファンなんです~」なんてことは
なんだかお世辞っぽすぎてとても言えなかったけれど。

私はバリ島に行くのだ、と言った。
「バリかあ、いいなあ。豊かだものね」
その人は大きなため息をついて言う。
「これから行くところはね……、着いた瞬間から
いつもものすごく陰鬱な気持ちになっちゃうんだよね……」
多くは語らない。
でもきっと計り知れないほど多くの現実を今まで見てきているのだろう、ということは
少ないけれど重みのある言葉から感じられた。
行ったことのない、行こうとも思ったことのないその国のことを
ほんの少しだけ想像する。

お互いの仕事の話も少しする中で、その人は言った。
「テレビカメラが入ることのできない領域ってまだまだたくさんあってね、
映像で伝えることができることにはどうしても限界があるんだよね。
だから、」
私の目をまっすぐに見た。
「テレビに映っていることがすべてだとは思わないでね」


今どきテレビに映っていることがすべてだとは
ちっちゃな子供ですらあまり思わないだろう。きっと。
でもニュースとかドキュメンタリーとか、
「事実」や「真実」を映しているように見えるものの外側に、撮影できない場所に、
そういうところにこそ存在している「現実」を
自分は果たしてちゃんと想像できているだろうか? と
この時の会話をふと思い出す度に考える。
今、目に見えていること以外の部分にまで
ちゃんと目を向けようとしているだろうか、と。
テレビのことだけに限らず。
なかなかこれができなかったりするんだなー、私には。甘いぜ。


そしてその仕事に携わり、きっと自分にできる限りのすべてを伝えたいと渇望しながら、
そのためにその場所へと向かいながら、
機内でたまたま隣り合わせた通りすがりの私に
「すべてを伝えることはできないんだ」とこぼさずにはいられなかった、
職業人としてのその人のある種のもどかしさややるせなさを、時々想う。

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