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猫とワタシ

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背中合わせのNight&Day

この記事のみを表示する骨董タクシー

過去の旅



そのタクシーは、乗り込んだ瞬間から妙な違和感があった。
ドライバーがトレンチコートを着たまま運転しているのである。
季節は冬で、すでに終電がなくなった深夜だった。
確かに外は凍えるほど寒い。
当然タクシーの中は暖房がきいている。
暖房のきいたタクシーの中で、そのクルマの主である中年のドライバーは
トレンチコートを着て運転している。
変だ。

車内にはクラシック音楽が流れていた。
そのタクシーにはものすごくいい音響設備が搭載されているようで、
全身が耳になったような感覚に陥るほど、
タクシーの中という小さな密室に音楽が充満していた。
それ以外の音が入り込む余地はそこにない。
トレンチコートの運転手と、あまりにも高音質のオーケストラ。
タクシーに似つかわしいとは決していえない。
というかやっぱり変だ。

渋谷から杉並方面に向かっていた。
そのルートをクルマで通るのは初めてだった。
もちろん私は道を知らない。
ドライバーは少しでも近道をしようとしてくれているのか、
交通量の少ない通りを選んで走っているようだ。

ひと気のまったくない、暗くて狭い道を走っている時に
ドライバーが唐突に音楽を止めて私に話しかけてきた。

「お客さん、骨董品って興味があります?」
「え? いや、別にないですけど」
「私はね、骨董品を集めるのが趣味なんです」
「はあ、そうなんですか」
「それでね、これをちょっと見ていただきたいんです」
誰もいない小さな公園の前にタクシーをとめて、
トレンチコートのポケットから何かを取り出すドライバー。
それは小さく折りたたまれた新聞の切り抜きであった。
かなり希少価値のある骨董の器が見つかった、というような内容の記事だった。

「私ね、この新聞記事に載っているのと同じ骨董品を手に入れたんですよ」
「へ、へえ……(やっぱり変だよ、変~←心の叫び)」
「実は今、この記事に載っている器が、このタクシーのトランクの中にあるんです。
…………お客さん、ちょっとだけ車を降りて、
私と一緒にトランクの中を見ていただけませんか?」


い、
いやー!!!

断固として拒否したら、ドライバーもすぐに引き下がり、
その後は黙々と目的地まで運転してくれたのだが。


ああ怖かった。
あの時はまじで怖かった。
寝苦しい暑い夜も一気に涼しくなる!? プチ恐怖の思い出なのであった。


*写真はもちろん本文とは関係ありません*

コメントの投稿

secret

No titleNo title

な,何じゃ,そのタクシーは?!
トランク覗いたら…もしかしたら押し込まれちゃったかも?!
怖い,怖いよ~(>_<)

ところで,タイトルをぱっと見た時に
「骨壺タクシー」と読んでしまった(^_^;)

No titleNo title

怖い!怖い!怖い!
タクシーって、ほんと、賭けだよねえ。

す~~~~んごいご高齢のドライバーとか、
信号や曲がり角のたびに指先確認するドライバーとか、
他の車にすぐにムカツいてるドライバーとかさ、

怖いこといっぱいありますが。

しかし、骨董タクシー、短編小説のような怖さですが。
今夜もまた、どこかで。。。。?

って、実は、白タクだったんじゃね?(となまってみたりもして)

No titleNo title

∵鯔ちゃん
おはよう~!
「骨壺タクシー」……それも怖いねー。
「実はトランクの中に骨壺が……」とか、勝手に怪談を作って
ひとりガクブルです(笑)。
でもほんとにこの話も怖いよねー。
無理やり見せられるとかじゃなかったことが幸いでした。

No titleNo title

∵yasupinちゃん
おはよう~!
怖いよねー、これは。
ほんといろんなドライバーがいるけど、人も車も通らない夜道で
トランクの中を見てくれ、なんて言われたのはこの時だけです。
昨夜もまた、どこかで。。。。?、だったのかなぁ。
そうか実は白タクだったのが(笑)。
それにしてもほんとは何が入ってたんだべな(←怖いほうへ怖いほうへと
なまりながらもっていこうとしてっど)。

No titleNo title

ひいいいいい
怖い 怖すぎます!!!本当に怖い。
トランク、見たくなんかないですよねぇ~~
それにしてもgunungさんが無事でよかった。
いやいや ちょっと涼しくなりました・・・
タクシーってけっこう怖い人に当たる確立が
高いので(私の場合)なるべく乗りたくないんですよねぇ
乗ったらいきなり「今乗ったとこがお客さんのご自宅ですか?」
と聞いてきて、変なヤツだなと思ったので答えなかったんですよ
そしたら「もう覚えましたから、何かあったら私がお客さんを
守ってあげます ボディガードしますよ」と笑いもせずに
言われたことがあって超怖かったです。
いやぁ怖かった。

No titleNo title

グヌンさん
ぎゃ~恐いよ!!!
良かったよ~何も無くて。
トレンチコートを着たドライバーってとこを読んで
変質者って話かと思った。恐っ!

とりあえずグヌンさんが、無事にタクシーから下りることができて良かったネ!!

でもさ、これって頭にくる!クレームを入れたいそのタクシーに!
ホントにタクシーなのか!!あり得ないよね!!(怒)
だってさ~夜中に女性一人で乗ったお客さんにすることじゃないよネ!
恐がるに決まってるよ~。許せんっ!!!( ̄‥ ̄)=3 フン

No titleNo title

こんにちゎ~~!!
めちゃくちゃ怖ぃ話ですねぇ~~。
私の想像では,①緒に車を降りたら,トレンチコートをがばぁ~って開けて見せられる(=_=;) のかと思ぃました。

ところでその新聞に載ってぃた骨董品ってなんだったのですか?

No titleNo title

gunungさん こんにちは
怖ぇぇーー・・・けど中も見たい(笑)
私だったら、目的地に着いてから見せてもらいます
だって好奇心には勝てませんもの
もちろん目的地は「ギラギラに明るい場所」で
「そばに誰かがいる場所」限定ですが・・・

No titleNo title

∵アパさん
こんばんは!
ひえーっ、アパさんのそのタクシードライバーもかなり怖いですわ~。
自宅を覚えましたから、なんてことをタクシーの運転手が
口にするなんてとんでもないなぁ。
ほんとナーバスになってしまいますよね、タクシーに乗るのも。

全然違う話ですが、私の知り合いの女性はタクシーの運転手に
「私の隣に座っていただけませんか?」と頼み込まれたらしいです。
それでその人は助手席に座ってあげたそうなんだけど(笑)。
いろんな運ちゃんがいますよね、ほんと。

No titleNo title

∵えこさん
こんばんは!
トレンチコートを着たドライバーって、イメージとしてはやっぱり
変質者だよねー。
なんかもしかしてちょっと変な人? と正直ドギマギしていたら、
やっぱり変な人だったのでした(トレンチコートは直接関係はないけど)。
そしてそうだよね、この時は怖いから早く降りたいとしか思わなかったけど、
よく考えると頭にくる話ですわ。
でもきっと他の乗客にも同じことをくり返しているような気がするので、
すでにクレームは入りまくってるかも!?

No titleNo title

∵もひょつさん
こんばんは!
そうですね、一緒に降りてたらトレンチコートをがばぁ~っ、だったのかも。
なぜにトレンチコートを着ているのかは結局謎のままでしたが、
謎のままタクシーを無事に降りることができてほんとよかったです。

そしてどんな骨董品だったのかうっかり書き忘れていて
失礼しました~。
うろ覚えなのですが、かなり古い時代の陶器の壺とか
そういうものだったと思います。
素人の頭で考えても、それが今ここにあるわけないじゃん!
とツッコミたくなるような代物だったと記憶しています。
うーん、やっぱり怖い……。

No titleNo title

∵みゆさん
こんばんは!
ああ~っ、確かに!
「ギラギラに明るい場所」で「そばに誰かがいる場所」なら
私も見たかったかもー(笑)。
この時の目的地は友達の家だったので、その友達を呼び出して
一緒に見てもらえばよかったなぁ。
でもそんな余裕はなくて、目的地に着いたとたん逃げるように
タクシーを降りましたが……。
なぜ客が逃げなくちゃいけないのだ~と考えると、ものすごく理不尽な
思いにかられますね、今さらながら(笑)。

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