Wendy's@Bali
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彼と彼と彼らの、あったかい味②おむすび#食べ飲み 新橋のとある居酒屋さんにて、 食べきれず残った焼きおにぎりを持ち帰りたいとお願いしたら、 お新香も一緒に包んでくれました、の図。 素晴らしきジャパニーズブンクス♪ この焼きおにぎりをいただいた夜も、仕事仲間の心やさしい男性諸氏から 自分にはもったいないほどのやさしい言葉をかけていただき、 とても心が温まったのだけれど、 おにぎりというのはなんだかそういうあったかい夜に ぴったりな食べ物だなぁと思う。 ずいぶん時がたってからも、その味を思い出すといつもあったかい記憶に結びつく。 そうか、むすびつくから「おむすび」ともいうんだ!(←全然違うと思われ) と強引な前振りをしたところで(?) 自分自身の話ではないのでちょっとなんなのだけれど 個人的に忘れたくない、あるおむすびの夜のこと。 「あいつはほんとにたいしたヤツなんだ。 ずいぶん前に奥さんを病気で亡くしてね、 それからずっと男手ひとつでふたりの息子を育ててるんだよ。 今じゃ自分の店もまかされてさ。仕事もして、家のことも全部ちゃんとやってる。 すごいヤツだ、いいヤツなんだ」 誰かが自分の友達のことを手放しで褒め称えるのを聞くのはとても気持ちがいい。 とくに男の人が語るそれは、なぜだか何とも耳に心地よい。 「あいつはさー」とその友達Tさんのことをうれしそうに話すのは、Jさん。 JさんとTさんが10年以上ぶりに再会するという場に、 私はたまたま居合わせた。 10年も会っていなかったとは思えないほどの近しさで 旧交を温め合うJさんとTさん。 しばしお互いの近況報告で盛り上がり、その流れでJさんがTさんに何気なく尋ねた。 「下の子ももうずいぶん大きくなったんじゃないの? オレが最後に会った時って、まだ小っちゃな赤ん坊だったよね」 この質問を受けたとたん、Tさんの表情がほんの少し硬くなった。 そしてわずかの間黙った後に、何か意を決したようにまっすぐJさんの顔を見て、 ニコニコと笑ってこう答えた。 「下の息子ね、小さい時に重い病気をして、後遺症が残っちゃってね。 わかりやすく言うと、ずっと赤ちゃんのままなのね。 だからね、今でもオレのほうが遊んでもらってるの」 ははは、とTさんは笑う。 でもその笑い声を飲み込むかのように、 部屋の中は一瞬、しんとする。 Jさんは少しだけ絶句した後に、 それまでの口調とまったく変わらない感じで言った。 「うん。そうか。よかったな。遊んでもらえるならさ」 Tさんの顔はその瞬間、パーッと明るくなった。 「そうなんだよ、よかったの。遊んでもらえてうれしいの、オレ。はははー」 Tさんは本当にうれしそうだった。 きっとJさんの言葉が、本当に本当にうれしかったのだと思う。 そしてふたりはまた、まるで昨日もそんな風に一緒に飲んでいたみたいに たわいのない話でゲラゲラ笑い合って盛り上がっていた。 そんなやりとりをそばで見ていた私は、 このふたりのことを好きになった。とても。 私が彼らに会うことはもうないだろう。 でも、この夜、ふたりの友情に温めてもらったこと。 そこにTさんがJさんのために作ってきた“おむすび”があったこと。 その味がやさしかったこと。 忘れたくないと思う。ずっと。
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